(2014年 機関誌に寄稿)
(競馬雑誌の小説に応募したものの返信なく落選した作品。たぶん)
(競走馬の名前と戦績以外はすべて創作です。)
2003年6月27日金曜日。WINS新橋(場外馬券売り場)。昼下がりの太陽に照り付けられたコンクリートは人を寄せ付けず、そこにはのどかに散歩する鳩の姿しかなかった。週末に春競馬の締めくくりであるG1レース宝塚記念が控えているとはいえ、こんな平日から馬券を買いにくる狂人などそうそう居ない。窓口の売り子の女性があくびをして目をこすったその時、その男は突然現れた。
男が黙って差し出した当たり馬券は、6月8日安田記念の勝ち馬アグネスデジタルの単勝130万円分。オッズ9.4倍の払い戻しで1222万円になる。これだけの大金となると手続きが必要で、平日に来てくれたことはありがたい。
「少しお待ちください。別室で準備いたします」
立ち上がった売り子の女性を制し、男が始めて口を開いた。
「この配当金全額で、ヒシミラクルの単勝を買いたい。」