ナミュール引退清算、あらためて血統を振り返る

記録を残しておかないのは良くない。なぜこの馬を選んだのか忘れてしまうからだ。
ナミュール本当にありがとう。

ナミュールの特徴は、

股関節の柔らかさだった、とキャロットクラブの会報からは読み解ける。気性の難しさはあったが爆発的な瞬発力とスピード維持は国内マイルG1を制覇し世界でも戦えた。その柔らかさの因子は母側のダンシングブレーヴ=Lyphardへの父側からの刺激だったと考えられるが、これまでダンシングブレーヴを持つ母がハービンジャーとの組み合わせで全て成功しているか、と聞かれれば、そうではない。

 まず父ハービンジャーについて、ハービンジャーの父父デインヒルと子系統は短距離を走っていたが、遺伝的には中長距離の馬も出していて、その父Danzigが出るか母父Ribot系が出るかで傾向が全く違っていたようである。父Dansiliはその両面的な傾向に、重賞馬を連発した名牝Hasiliを掛け合わせて、より得意距離を伸ばしたと言える。Hasiliの血統はイドノブルボン×Hyperion系と鈍重に思えるのだが、どの種牡馬でもスピード勝負で戦えたのだから母系も優秀だったと言えるだろう。そのDansiliにさらに長距離傾向のBering系を配合して産まれたハービンジャーは、キングジョージをレコードで駆け抜けるような猛烈なスピードを授かった。Danzigのスピードを削がないようにスタミナを徐々に積み上げていき中距離を走れるようになった馬がハービンジャーだ、と言える。
 つまり、Danzigの「スピード」を柔軟性で「ある程度我慢できる」ようにしているのである。これは次に語るサンブルエミューズに関連してくる。
 母サンブルエミューズは逃げるか追い込むかの極端な競馬を好み、最後は短距離で走っていた。これは血の影響が大きく、父ダイワメジャーはサンデーにスカーレットブーケ=Spy Song血統、母父フレンチデピュティもパワー血統なのでダートでもおかしくないくらいのパワー寄りの配合である。使える脚が短く我慢が利かない血統なのだ。(あえて、母の奥に眠るダンシングブレーヴは無視して話しているが。)
 初仔ヴェスターヴァルト(父ノヴェリスト)は重賞入着くらいまでは活躍したものの尻すぼみに終わり、母側の固さが距離延長を邪魔する形になってしまっていた。サンブルエミューズには柔軟性のある父が良い。そう、かつてDanzigに中長距離系の母を何代もつけて柔軟性を引き出したように、サンブルエミューズに「血の緩和」が必要なのである。
 と牧場が考えていたかどうかはわからない。(妹は父キタサンブラックなので、あまり考えていなかった可能性も実は高い。)そうして産まれたナミュールは一代で回答を出した。瞬発力は距離の柔軟性に裏打ちされたもので、父から引き継いだ柔軟性で最終直線まで力強い加速を我慢できたことが日本や世界で活躍できた原動力である。
 1986年の凱旋門賞、最終直線で競ったのはダンシングブレーヴとBeringだった。紆余曲折を経て、2頭の血が合流したナミュールが互いの特徴を併せ持って活躍した、というのは私の妄想が過ぎるだろうか。ナミュールには次世代に血をつなぐ仕事が待っているが、ハービンジャー側のShareef DancerはNorthern Dancer×Sir Ivorなので、Alzaoと血統構成が似ていて中長距離系のディープ後継種牡馬と相性も良さそうに思える。まだまだ未来への楽しみは繋がりそうだ。